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糖尿病の霊薬/ジャノヒゲ

あたりは樹齢200年ほどのケヤキ、クヌギ、エノキなどが輪生する雑木林であった。
ハイエナのような格好で地面スレスレにエサを求めて這い回る。
だが霊長類は手足を使ったて二足走行で退化したのか感覚が非常に劣っていた。
視覚で探すしかない。
とその時だった。
樹林の下の土が無造作に穴だらけになり泥のついた根茎と草が裁断されたようにバラバラに地面に散乱していた。
なんだこれは?と不信に感じてあたりを見回した。
複数の獣が荒らし回った痕跡が足跡に残っていた。
「これはどうみてもイノシシの仕業だな」
腐葉土が微生物により分解され黒土の地面にネバネバしたヨダレや糞尿がいくつか散乱していた。
そこから非常に臭気のある匂いが立ち上っていた。
「ウヒャアっ、これは臭い」
と鼻を思わず手で押さえた。
何を食べたか分からないがこれは嗅覚の細胞が強烈な刺激で腐敗しそうだった。
だがよく見るとねっとりとした唾液や糞尿の近くに泥のついた細長い肉片が散らばっていた。
それは決して大きなものではなく何か細長いソウメンのようなタンパク質の破片である。
大型動物ではなく小さな軟体動物のようなヌメヌメとしたものだったのだ。
咄嗟にこれはミミズだと直感した。
原形があれば泥を洗って焼いて食べるもいいが形のない肉片では食指が湧かない。

何かうまい食物はないのかと腹をたてながらあたりをうろついた。
だが突然静寂を金属的な金切り声が破った。
その一部不明の未知の声はケヤキの木上からであった。
5匹のサルが警告を発しながら幹の上を走り回っていた。
体調40センチほどの日本ザルである。
顔の全体が唐辛子のように赤い。
その特徴が日本ザルそのものだったのだ。
「キャツギャッキャツギャッ」
安全と感じたのか今度は薄黒い唇をくねらせて笑い出した。
全身泥と毛だらけの動物を見てゲラゲラと笑った。
その目を見ると非常に憤怒が湧いてきた。
軽蔑しているようだ。
「グェツ、グェツ、ヒヒヒヒヒピピピッ」
木に登って叩き落とそうとしたがサルにはかなわない。
軽くあしらわれた。
さらにイノシシが残した痕跡を調べてみる。
見落としがあるかもしれない。
それにしてもこの荒しかたはどうだと草の根の塊を掴んだ。
とその時だった。
草の根の塊から多数のひげ根がむき出している。
よく見るとひげ根の先端に何か落花生のような肥大した物体が無数にぶら下がっていた。
なんだこれは?
豆のような根を掴んで凝視するとその中心部分から歯で噛み砕いたような切断面が見える。
明らかにこれはイノシシが食べた痕跡であった。
イノシシはこの根を餌だと感じて土を掘り起こしていたのか?
よしそれならば食える可能性がある。
泥を少し払い除け落花生そっくりな白い豆をいきなり口の中に落とし鋭い犬葉で噛んだ。
ピシャという歯切れのよい感触が歯茎に伝わってきた。
次の未知の刺激を待った。
想像を絶するほどのシャキッシャキッという潰れた音の後にまるで砂糖のような甘みある心地よい刺激が伝わってきた。
生の落花生を噛じっているような錯覚に至るほどうまいものだった。
「ありゃあっ、これはうまい」
生唾を飲み込んだ。
「これはいい」
イノシシが必死で土を掘り返して食べる意味がこれで飲み込めた。
酒のつまみになりそうだ。
よし、洗いざらい略奪していく必要があるだろうと唸った。

0分ほどで100個の豆を採集しリュックに詰める。
久方ぶりに今夜はうまい晩飯にありつけそうだ。
だが名前も薬効も分からないのではどうにもならない。

薬物文献で一応調べてみた。
それはユリ科の多年ジャノヒゲとあった。
驚くことしかも漢方薬であり滋養強壮、急慢性感支援、鎮咳、去痰に有効と記載されていた。
むろん古代から伝統的な肺臓疾患の薬物であり生薬名、麦門冬とある。
毒性、副作用はない上薬であった。


ジャノヒゲ 麦門冬

成分
多量のブドウ糖、粘液質,少量のビタミンA

効能
強心、強壮、鎮咳・血糖降下、
殺菌作用
黄色ブドウ球菌・大腸菌・チフス菌に対して強い抗菌作用がある。
その他に肺結核、扁桃腺炎にも効果がある。
心臓病で多汗、頻脈、低血圧の時は朝鮮人参5グラム、黄精10グラム、朝鮮五味子5グラムを乾燥品、コップ五杯の水で60分煎じて食間に3回服用するとよい・。注意

上記の薬剤はネット、または漢方薬店で入手できる・

滋養強壮・体質改善ジャノヒゲの薬酒作り方

効能 糖尿病、咳止め、体質改善の名酒

作り方

ジャノヒゲの肥大した根茎、麦門冬の乾燥品
ホワイトリカー1.8リットル
麦門冬乾燥品60グラム甜菜糖60グラム

麦門冬60グラム、乾燥品を広口瓶に入れてホワイトリカー1.8リットルを加えて麦門冬を入れる。
冷暗所、紫外線のない場所で2ヶ月間熟成させる。
2ヶ月後、熟成させたらカスを除いて別なビンに移して寝がけに盃2杯ほどを飲む。

この酒は肺が弱い人ほど有効である。


夕飯の食卓

夕暮れ前に洞穴に帰宅し手作りの石を積み重ねただけの釜戸に薪を入れて火を燃やした。
火の勢いが良くなるように松脂がガッポリ付着した松の乾燥した皮を細長く刻んだものを入れて乾いた落葉にをつけた。
火はメラメラと燃えがった。
「よし、これで鍋をかけよう」
使い古した鉄鍋に竹の水筒から清流でくんだ透明な水を半分ほど注ぎ採集したジャノヒゲの豆のような根茎を、とりあえず50個ほどジャブジャブと落とした。
味付けは日干し岩塩であった。
しばらくすると鍋のそこから加熱した水が熱湯になり白い湯気が猛然と吹き出してくる。
香ばしい根茎の匂いが狭い洞窟に充満し食指をそそってきた。
「これはうまそうだ」
とネットリとした生唾を飲んだ。
むろん初めて食べる薬草の根茎であった。
外観は食物の落花生そっくりだった。
冷めたビールがあれば申し分はないのだが何しろ何もない山である。
贅沢はいえない。
食べ物にありつけるだけで十分だといわねばならない。
後はうまいかまずいかのの違いである。
ヌメヌメしたナメグジよりよさそうだ。
手製の竹のサジで蒸した根茎をざっくりとすくいとり少し冷めてから口を開いてそれをまとめて放りこんだ。
風味は塩だけである。
それだけで歯茎の隙間から唾液が湧き出してきた。
「プシュプシュ、カリカリ」と噛む。
食感はすこぶるよい。
その後、味覚細胞がその刺激を感知したのか甘み微妙な苦味、心地よいえぐ味が複雑に混ざり合い筆舌しがたいうま味が口の中で溢れ出してきた。
「ウリャアッ、これはうまい」
と唸った。

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