皮膚病と胃潰瘍の霊木・アカメガシワ
富山県中部のことであった。
山に入って三年、たまにはそこから抜け出して味噌汁でも食べればと思い類人猿のような全身の髭を
そり使い捨てのシャツと破れたズボンで頭髪も整え石積みダムの現場作業員としてアルバイトをした。
仕事は水漏れを塞ぐためのボーリングの仕事であった。
むろんその間は飯場の宿舎で過ごすことになった。
久しぶり朝食は豆腐入りの味噌汁であった。
そのうまさは格別である。
三年間の山暮らしの泥と汗を落とすために作業員が入った後に風呂に入ったが
湯面は古い角質と汗と泥で沼のように汚れた。
ダムの周辺は手つかずの原生林が海抜1200メエトルの連山まで広がりケヤキ、ホオノキ、ツガ、モミジの古木が空を塞ぐように生い茂っていた。
ダムの貯水地の樹木は大規模に伐採がされてその斜面は切り倒された真新しい倒木が無数に
倒されていた。
ひょっとすればこの倒木に薬木があるかも知れない。
どうせ廃棄され処分される木である。
日曜日の快晴を機に早速伐採された無数の倒木を綿密に捜索した。
樹齢300年のブナの木がいくつも無惨に倒されている。
まるで白鯨のような巨大な倒木がいくつも切断されてウジャウジャ転がっていた。
何かないのか、必死で付近を探し回る。
とその時であった。
長さ30メエドルに及ぶかという巨大な倒木が昼下がりの太陽の下に鉱物のように銀色に輝いていた。
樹皮に無数の茶津褐色の筋が縦に走り見ただけで焼けるような興奮が心臓から噴き出してきた。
「ウヒャアッ、これは凄い」
なんとそれは霊木アカメガシワの巨木であった。
薬用部位は樹皮であった。
倒されていまだ日がたっていないのが登山ナイフで剥ぐとネットリとした透明な液体が滲みだしてきた。
これが液性免疫に違いない。
かなり大きな登山用のリュックに剥いだ皮を押し込み宿舎まで運搬した。
物好きな人夫がたちまち数人群がってきたが薬になると言うと一応に驚いた。
皮は刻んでザルに入れて宿舎の外で乾燥させた。
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