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筋肉増強剤、麦門冬の大量収穫

リュウノヒゲが雑木林や人工林の下の陰地にあるとは聞いていたがこれほど大規模に大群生しているとは想像もできなかった。
数百株あるほどの塊だ。
黄金の金塊が埋もれている光景に息を呑んだ。
ある種の大豊魚の興奮で心臓に火がつきそうだった。
これで当分餌の心配はしなくていいなあ、と感激しながら笑った。
小型イノシシ1頭分ほどのリュウノヒゲの株を手製の大きなクワで掘り起こした。
ムッしりとした硬い感触が塊になって伝わっきた。
これはデカいなあと泥と汗とよだれでげがれた唇を少し噛みしめて両腕に満身の力をくわえて掘り起こした。

下から持ち上げる重さは40キログラムのセメント1袋分の重さだ。
森からクジラが取れた感じだ。
今晩の飯はリュウノヒゲが大量に食えそうだ。
それだけで顎からヨダレが垂れ下がってきそうだった。
これはいい。
ふと思い出したが偶然岩山の探索中で天然の岩塩を発見し布袋にコップにいっぱい保存した記憶が蘇った。
これはしめた、うまい。
酒のつまみが出来そうだと感激して叫んだ。
とそのときだった。
クマザサの繁みがガサガサと不吉に動いた。
不信に感じてみたところ巨大なニホンカモシカであった。
体毛が銀色に輝いている、まるで日本画にでてきそうなほど見事なカモシカであった。
これはすげえなあと唸った。
非常に大人しい寛容な眼差しで済んだ目で眺めていた。
下顎から顎髭魔が垂れ下がりどんな雑音にも動じることかなく整然と重厚に立っている。
その神秘的な風貌は深山の哲学者のようだった。
これは凄いと2度唸った。
俺もあれくらい貫禄が欲しいとつばを吐いて渓流にもどった。
ボチボチ腹が減ってきた。
沈黙した異袋が突然野獣になって吠えだした。
腹が猛烈に減ったなと目を吊り上げて牙を出した。
これだとドンブリに2杯ほどの豆が胃に入りそうだ。
さっそく夕飯の準備にとりかかる。
錆びて擦り切れた鉄鍋を火にぶら下げるのに2本の生木を切って深く挿し込んで針金で鍋を生木に固定しぶら下げる。
乾いた松の枯木を集めて火をつけて燃やす。
その火は勢いで火が立ち上がり風に舞いながら火の粉が飛んだ。山火事が起きそうな勢いだ。
塩を適量ふりかけて味をつけて豆を沸々と煮えはじめた。
これはいい。
と満足した笑みをうかべて豆をかき混ぜた。
これに酒かビールがあればなおさらいいのだがと舌を鳴らした。
やがて豆がほどよく煮えてきた。
木の枝二本で箸を作り豆に刺してみた。
するとプスプスという煮えたいい音が鳴った。
よしこれはいいぞ、と刺した豆を口にくわえて歯で噛み砕く。
絶妙な甘味が舌の先端に浸透してきた。
これはうまい。これはいける。これはいい。と唸った。

リュウノヒゲの豆は生薬で麦門冬(バクモントウ)という漢方薬である。

麦門冬
リュウノヒゲの根の部分

鎮咳去痰、気管支炎などの呼吸器疾患に使われている。
むろん滋養強壮作用もある。
扁桃炎などにもよい。

茶碗一杯ほど食べた。
後口の中に異質なベラリとした粘液質の柔らかい肉の塊が歯茎に触れてきた。
なんだろうかと感じてそれを二本の指で掴んで口の外に出した。

「グオオオオオ、グヒッ」

その肉質の正体はナメクジだった。
すでに丸ごと2匹が喉から胃袋に落下しているようだ。
「ウエエエエェツ」
こらはいかんとうめいて吐き出す。
だがセメダインのような強力な接合力がありヒトデのように食いつたままだ。
これは仕方がない。
ついでだから食べようという気になり今度はなメグジの塊を舌でほじくり出してヌチャヌチャと喉に滑らせる。
良いタンパク質だなと唸って、ついでに20匹ほどを胃に滑落させた。
「ウへェこれはまずい」と叫んだ。
だが問題はその後であった。
口の中になにか異物が羽根を広げてパチパチと弾きながら飛んてきた。
グチャと吐くと3匹の泥で汚れたゴキブリがビックリして飛び出してきた。
体長10センチもある大型の山ゴキブリである。
ステーキぐらいの大きさだ。
ゴキブリは異質な肉の空洞に引っかかり羽を痙攣させて、
のたうち回った。
ゴキブリの足のトゲが喉の粘膜をしきりに襲ってきた。
それは尖ったナイフより鋭いものだった。
「うあーうあーひひヒヒヒヒヒヒつ」
数個のトゲが引っかかり関節が痙攣し柔らかい肉をえぐってきた。
「うあーヒヤアヒイゥ」
どこからでてきたか不明だが2倍量のナメクジとゴキブリで口の中にそれがふんずまった。
猛獣になってのたうち回る。
不気味な不安と恐怖に今度は自分がのたうち回ってきた。

「ヒィヒヒヒーイッ」

別な軍団だろうかいつの間にか大きな図体のムカデが3匹口の中にゾロゾロと入ってきた。
黒いエネメル質の無数の足が剣のように鋭く尖っていた。
その先端には毒液を貯める液胞ような物が見える。
これに刺されたら一貫の終わりだ。
激痛の騒ぎではない。
恐ろしほどの腫れが襲ってくる。
これは何が何でも避けねばならない。
必死で口の中に親指を入れてまさぐった。
すると2匹のムカデがもがきながら毒液の針を盛んに刺そうと揺すらしだした。

「ヒヒヒヒヒヒ、グオオオオオ、ヒヒヒヒヒヒッ」

何が何でもこれだけは阻止せねばならない。
懸命にムカデを口の外に出そうと掴んだ。
するとムカデは人差し指を力ずくで刺してきた。
その先端の針が何回も柔らかい肉の中に突き刺さった。
「ウアアアウッヒヒヒヒヒヒ、ヒヒヒヒヒヒグアッ」
激痛に耐えかねて左右に体を左右によじる。
すると間もなく口の中の柔らかい粘液質の肉質が赤く膨れて異常に腫れてきた。
腹が大きな塊になり青黒く変色し細胞が毒で身悶えているようだ。
激痛と腫れでなすすべなく横たわり腹ばいで悶絶した。
胃袋が虫の大毒で粘膜が破壊され細胞がバラバラになりそうだった。
その後少しは収まると思ったが悪夢のような苦悶が8時間持続した。
まさにこの渓谷は地獄だ。
一心不乱で渓谷から逃れようとイノシシのように呻きながら走った。
それから2週間死ぬほどの倦怠感と腹痛、下痢の連続でやせ衰え衰弱し体重が10キログラムほど撃滅し痩せた野牛のように胸の肋骨が鋼鉄のようにむき出しになった。
これはひどい、チキショウと怒鳴った。
これはかなり重症だった、餌探しの騒ぎてはない。

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