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日本から消滅する干潟

昔の筑後川

福岡県、佐賀県、熊本県をまたぐ干潟。
有明海は日本一のノリの生産量を誇る豊かな漁場であった。
ノリだけでなく高価貝柱の原料になるタイラギの産地でもある。
有明海特産の珍魚、ムツゴロウの他にアサリ貝、カキ、ワタリガニ、などが生息する多様な海産物が取れる海であった。
四季を通じて多様な異国から飛来する野鳥が飛びかい長距離遠征の旅路で食物と癒しを与えるオアシスでもある。
たが1999年の後半から次第に漁獲量が減少し、タイラギなどは特にひどく中身のない死貝が続発し現代ではほとんど撃滅し沼のような海底に黒い泥が堆積しまさに生物が息絶えた死の海となったのだ。

私はその頃実家が北九州市小倉に住んでいたが夏休みには叔母がいる久留米市の筑後川、城島の建設事務所の管理人をしていた事務所で一ヶ月ほど夏休みの休暇を過ごしたものである。
1940年から1960年の後半まで筑後川の水質は透明で引き潮の時は砂山が隆起し無数の穴が開いていた。
そこを手で掘ると大型の褐色の二枚貝シジミがバケツ一杯ほど取れた。
それを生醤油で煮た吸物は筆舌し難いほど美味であった。
堤防は今のようにコンクリートで舗装されておらず堤防沿いにはススキがか群棲し河川敷の川沿いにはアシの大群生が日田の源流まで続いていた。
ホコリだらけの砂利道にはバスの騒音で驚いてバッタやイナゴが無数に弾けるように飛び出してきた。
こうした田園風景の空間に白いモンシロチョウが紙吹雪になって乱舞したものてある。
川の下は広大な筑後平野が広がり日本でも有数のコメ、麦が取れる穀倉地帯であった。

現代の筑後川

だがその自然美しい光景と昆虫、水性動物の活動はほとんど悪夢のように死に絶えてしまったのだ。
以前は無数に生息していた甲殻類のザリガニ、ドショウ、メダカ、ゲンゴロウなどの水性昆虫も一匹さえ姿が消滅した。

数十年にわたって無差別的に散布された農薬の殺虫剤による絶滅であった。
それと当時に猛毒の合成界面活性剤が下水から川に流出したためだ。
生活雑排水と合成洗剤に毒性の強い農薬により筑後川、それが注ぐ水系のほとんがドブ川となり黒く淀んで死に絶えたのだ。
筑後川周辺にはザリガニもフナもドショウも二枚貝のシジミも黒いカワエビもウナギも全滅した。
その原因は猛毒有機塩素系の殺虫剤、除草剤、合成殺菌剤、化学肥料の膨大な散布と流出による汚染である。
農薬に副産物として含まれる鉛・ヒ素・ アルミニウム・ヒ素などの重金属の汚染も酷い。
こうした大規模な自然破壊が筑後川だけでなく有明海の広大な海を汚染し、海洋生物を絶滅一歩手前まで追いこんているのだ。

恐怖の絶滅を呼ぶ海洋汚染/有明海そして筑後川水系

筑後川は第一級河川であり源流の大分県まで無数の川が分岐している。
まさに福岡県久留米市は水に恵めれた水郷の豊かな自然が広がっていたのだ。
川の堤防ススキが群生し春になると黄色の菜の花で一面が絨毯のようになる。
川岸には一面が水質の汚染を濾過するアシの大群生が風になびいていた。
そのような光景が広がっていたが今では川岸を埋め尽くしたアシの群生はなく、
防災の目的で多様な水性植物が生える川底までコンクリートの堅い人工物が覆い尽くされ水生昆虫や水性動物の見る影さえない。
アシが絶滅すると上流から激しく下流に向かって移動してくる汚泥、土砂が途中で残留し川の水がはけず淀んでくるのだ。
水の循環が悪くなれば水質が汚れ水性質植物も枯れて減少しそれに集まる水生昆虫や川魚も生息環境が悪化する。
ましてイネ科のヨシは汚染した水を浄化し水質を改善させる働きがあるのだ。
ヨシの撃滅は防災を目的とした水底をコンクリートで大規模にかためたこと、除草剤、殺虫剤、合成界面活性剤,週金属類汚染により繁殖が阻害されためである。
これは福岡県の筑後川だけでなく全国の河川、水系の景色と自然破壊・環境汚染であろう。

日本から消滅する干潟

潮の干満に対して水没と干潮を繰り返す現象が干潟であった。
干潮時には広大な砂泥地が出現し、野鳥や貝類、エビ、カニなどの甲殻類、海藻などの藻類、海泥生物としてのゴカイ、これら多様な生物種が豊富に生息し繁殖したのが干潟であった。
これら生物においてなくてはならない楽園が干潟である。
干潟は太陽の直射が海泥まで達して、有機物を含んているが上に、第一次生産差としての、植物プランクトンが繁殖し、それを食べる動物プランクトン、甲殻類、貝類などの捕食者、魚類などの消費者、それら排泄物、遺骸を分解し還元させる細菌類、バクテリア、微生物の宝庫である。
このような生物生態系の中には無駄なものは存在しない。
あらゆる生命が食物連鎖の上に体系づけられ、そのどれか一部またはその部分が消滅するだけで生態系が分断され、場合によっては、ある種の生物の絶滅さえある。

まだ干潟は陸上から川を通じて運搬されてくる天然の汚泥や人間の生活雑排水、工場廃液などを削減する濾過装置の役割をもち、次の生物に利用される再生栄養物の利用される機能がある。
このように陸上から流失する有機物や窒素、りんなどの無機塩類が蓄積しやすい。
このためしばしば海水温が上昇し植物プランクトンが異常繁殖を起こし酸素欠乏やプランクトンが排泄する毒素などにより魚介類などに被害を及ぼすものが赤潮であった。
しかし干潟の濾過機能が正常であれば赤潮が発生することは稀である。
海泥生物のゴカイは干潟の有機物を吸収して分解し排泄物を出す。
こうしたゴカイの排泄物がアオサ、ワカメ コンブなどの藻類の栄養源となるのだ。
貝類などのアサリは水中に含まれる植物プランクトンや珪藻類の粒などを食べてこれを分解し、排泄しているが、海藻はこれらのものを栄養源としている。
海泥に生息するバクテリアは生物の余分な死骸を分解している。
中にはチッ素をガスのように気体にし、大気に還元するものもある。
バクテリアが放出する窒素は海藻が吸収し、栄養源として分解し水質を浄化させている。
どれもすべて干潟の生態系と自然環境を浄化させるのに不可欠なものである。
今ここであるバクテリアが減少し死滅したとしよう。
そうすると干潟のある生物の死骸が腐敗し水質が悪化し栄養・塩類が増加し、水質が極めて悪化し干潟の生物は減少し場合によっては絶滅する。
あるいは海藻などが撃滅すると、珪藻を食べているカニなどが重要な栄養源を失うことになる。
カニは珪藻と微生物を食べて微生物のある種の猛烈な繁殖をコントロールしている。
あるいは野鳥は海底の泥土に生息するゴカイや植物プランクトンを栄養としておりプランクの異常繁殖を生態系が維持できるように調節しているのだ。
人の魚介類の採集も適度であれば泥を折り返す事になり、大気中の酸素が海泥内に入り、ゴカイやバクテリア、貝類の生息を助けることになる。

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